石飛博光(いしとびはっこう)さんのことを、クラシック音楽の世界に喩えるなら、こうです。――彼は、ヘルベルト・フォン・カラヤンの厳格な古典解釈と、レナード・バーンスタインのモダンな叙情性、そしてキース・ジャレットに通じるしなやかな前衛感覚、この三つを兼ね備えている――。一人の人間にいったいどうしてそんなことが可能なのでしょうか。それは、石飛さんが、甲骨文に始まる三千余年の書の歴史において、そのもっとも正統な王道に立っていると同時に、その最先端の領域を拓いているたぐいまれな個性だからです。
2005年『石飛博光臨書集 古典渉猟』全10巻+別集1巻が完成しました。臨書とは、拓本となった古代の名筆を手本にして、筆の使い方を学ぶものです。この臨書集は、王羲之(おうぎし)をはじめとする中国の名家のみならず、古代殷王朝の甲骨文や、三筆といわれる日本の能書家までを網羅して、しかもただ古典を解説するのではなく、わかりやすい説明とあたたかな語り口でもって、古典に新たな命を吹き込みました。石飛さんの師である金子鴎亭(かねこおうてい 1906-2001)の『書法究尋』、さらにその師であり近代書道の父といわれた比田井天来(ひだいてんらい 1872-1939)の『学書筌蹄』といった先達の偉業に深い敬愛の念を抱きつづけてきた石飛さんならでは業績といえるでしょう。
石飛さんは古典を平成の世に甦らせるだけでなく、書を広く現代の人々に愛されるものにしようと尽力してこられました。30代でNHK文化センターの講師を務め、40代ではNHKのテレビ婦人百科「実用書道」に出演、明るく柔和な人柄と丁寧な解説は大変な人気を博しました。以来、さまざまなテレビ番組にゲストとして出演するにとどまらず、コマーシャルに出たり、ビールメーカーの新商品のロゴを手がけてみたりと、マスメディアや商業デザインの分野にも進出し、書を現代に生かす活躍をされてきました。書を通して各界著名人との交流も広く、門人の会である博光書道会からは多くの逸材が輩出しています。  
今なおそのやわらかな感性と鋭敏な時代感覚でもって、石飛さんは書の先端を探求しつづけています。「愛しき世紀/いとしきとき」と題して、2001年に銀座で開かれた個展では、みずから愛唱する詩文を選び、存分に筆をふるいました。そこには、屏風となった桑田佳祐の詩「TSUNAMI」があり、中国北宋の書家蘇軾(そしょく)の漢詩があり、永六輔の、ユーミンの詩がありと、何ものにもとらわれない自由闊達な風が心地よく吹いていました。書の王道を歩んでこられた石飛さんだからこそ、ジャンルを超えて想像力を羽ばたかせることができるのです。  
「よい作品は世界が大きい。限られた紙面の中に、大きな世界が創られており、そこに勢いやたくましさ、旺盛な生命感が盛り込まれている」。石飛さんの言葉です。そして、明るさ。ただきれいということではなくて、紙面全体が輝いていることが大切で、そこに書の命が宿るというのです。還暦を超えて、ありのままの自分を素直に表現しようという境地に至った石飛さんは、みずからのことを演奏家に喩えます。「素敵な詩文や言葉を見つけて、それを紙いっぱいに奏でるのだ」と。素朴なものに心惹かれ、何の変哲もないものが書ければいいと願う石飛さんは、書のマエストロとして真っ白な紙に向かうのです。
石飛博光 profile
1941年北海道赤平市生まれ。上京後、金子鴎亭に師事。東京学芸大学卒。63年22歳で日展初入選、翌年毎日展毎日賞受賞。85年故郷にて第一回個展。88、89年日展特選連続受賞。96年NHKテレビ「実用書道」講師。01年個展「愛しき世紀/いとしきとき」開催。04年NHKテレビ「たのしい暮らしの書道」講師。03年スイス・ジュネーブで個展。05年石飛博光臨書集 古典渉猟』全10巻+別集1巻完成。日展 審査員、毎日書道会総務・審査員、創玄書道会理事長・審査員。自治体の公共施設・大学・寺院等で揮毫するほか、多くの商品ロゴを手がけるなど商業書道の分野でも活躍。
石飛博光さんへの制作見積りなどお気軽にお問い合わせください。
筆文字なび」では、書家と第一線で活躍するグラフィックデザイナーとのパートナーシップにより、個性溢れる書に機能美を加え、ロゴとして完成させる万全のシステムを備えております。
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